アルバイトを楽しむ
この背景には,不良債権償却率が高い銀行は,償却する体力があり,また「不良債権処理が終わった優良銀行」との評判が市場に普及したことがあります。
これに対してB銀行の利益は,「不良債権の償却についで今までの慣行”という基準に従えば,こうなります」という意見にすぎなくなります。
一方,キャッシュフロー上で,この2行はどう違っているのでしょうか。
もし償却・税前利益が等しく,不良債権の償却が税控除の対象になる,つまり無税償却ができるなら,キャッシュフローはA銀行の方がB銀行のそれより税控除分だけよくなります(他の部分,例えば必要運転資本増減や設備投資は同じと仮定しています)。
キャッシュフローが多い分だけ,市場がA銀行を評価しているともいえます。
不良債権の処理に関しては, 1998年4月7日付の「日本経済新聞」の朝刊に「バブル処理先送り限界」という興味深い記事が掲載されています。
この記事によると,「バブルのうみや不採算事業を抱えた企業が遅ればせながら,巨額の特別損益を計上して問題処理に動き出しだのは,このままでは自滅するとの危機感がようやく出てきた」ことになります。
ここで少し長くなりますが,この記事を紹介します。
「デフレ的な経営環境で,企業評価の重要なポイントとして,信用リスクの問題が注目されてきた」のであり,「含み損にふたをしているとバランスシートが信頼されず,最悪の場合,いつ信用不安が足元から起きるかもしれない」と述べられています。
つまり含み損を計上する企業については,企業実態をはっきり示す,正しい企業評価の第一歩とみなされております。
そしてあるゼネコンの「株価が6日に上がったのは,市場が特別損失の計上を単純にマイナスとは見ていないことを示している」のです。
そして結論として,「含み利益に頼る経営が成り立たなければ,時間をかけて含み損を処理したり,不採算の事業をいつまでも抱えたりすることは許されない。
キャッシュフロー,つまり現金ベースでいかに多くの利益を上げられるかが重要になる」と述べられています。
また米国の例も紹介され,「含み経営のない米国では,キャッシュフローを物差しに経営をやり事業を評価する考え方が定着している。
このため利益を生まない資産は極力もたないし,不採算事業の処理も早い」としています。
ここで,大変重要なことが浮き彫りになってきます。
不良債権を早めに処理することも重要ですが,もっと大切なことは,日本的経営の今までの特徴は含み経営とキャッシュフロー軽視の経営であったということです。
私はある論文で,日本企業がキャッシュフローを軽視する,またそうできた理由の一つにメインバンク制を挙げました。
高度成長期に系列内でメインバンクが果たした役割は大きく,貸出先行型の信用創造を行っていました。
これは,系列企業は銀行から借金をし,銀行は同額を当該企業の預金とします。
そして,系列内取引先からモノを購入すれば,メインバンクの預金の名義が変わるだけで,キャッシュの動きがなく取引を完結できます。
これを繰り返せば無限に信用が創 また,系列外取引が発生し,現金決済が必要な場合は,インターバンク市場で資金を融通すればよく,市場から資金が流出しても,最終的には企業の売上や企業・個人の預金となって銀行に戻ってきます。
しかし1997年の金融不安時には,このメカニズムが機能しませんでした。
また銀行の貸出は,含み資産を担保として行われていました。
銀行にして仏この錬金術を行ってもいざというときには含みを売却させればよかったのです。
キャッシュフローを気にせず投資を行い,企業規模を拡大して,世界のマーケットシェアを買うことができました。
しかし,いわゆるバブルの崩壊により,含みが消滅してしまい,このメカニズムが働かなくなったばかりでなく,不良債権によって銀行の体力が大幅に落ち込んでしまいました。
これからは,銀行はあてにならず,また貸し渋り等が考えられ,キャッシュフローを黒字化することが求められます。
このため, 1年や半年で区切った損益計算書の利益管理では,経営ができなくなります。
P/L(損益計算書)重視,エクイティ文化不在,規模の追求,マーケットシェア追求,テクノロジー重視,株主軽視は日本だけのことではなく,欧州大陸の企業でも似たような経営が行われてきました。
しかし,経済成長の減速,低賃金国との激しい競争,規制緩和と自由貿易,国営企業の民営化等の環境変化にさらされ,そして,年金基金等の機関投資家等の発言力が強まったこともあり,投資家は投下資本に対するリターンへのプレッシャーをかけています。
こうして,日本同様に,ステークホルダー(企業の利害関係者)として,従業員を株主以上に重視し続けることができなくなり,株主も大切にすることになりました。
その結果,キャッシュフローを重視する経営に取り組み始めています。
さて,話を利益とキャッシュフローに戻します。
会計基準の違いで,利益が大きく異なった例として有名なものがあります。
ドイツのある自動車会社がニューヨーク証券取引所に上場するため,米国会計基準で財務諸表を作成しました。
1993年度の同社の利益は,ドイツ会計基準では6億ドイツマルクの黒字でしたが,米国会計基準によると18億ドイツマルクの赤字となってしまいました。
これは,年金などに対する引当金や準備金計上の基準(計算方法)が米国とドイツで異なるためです。
しかし,キャッシュフローでは,準備金や引当金の繰入額といったノンキャッシュ費用は差し引かないので,ドイツと米国で異なった数値にはなりません。
ノンキャッシュ費用以外に利益がオピニオンになってしまう原因として,棚卸資産の評価方法があります。
FIFO(先入れ先出し)やLIFO(後入れ先出し)等の評価方法によって,同じオペレーションでも原価額に違いが起こり,利益に違いが出てきます。
毎年購入する資材や製品の金額が上昇するインフレ時においては,LIFOを使うと後から入庫した金額の高い在庫から先に出荷することとみなすため,損益計算書に売上原価として計上する金額が高めになります。
逆に棚卸資産は,先に入庫した比較的金額の低い在庫が残るとみなされるため,低めになります。
同じオペレーションを行っていても, FIFOを使っている場合はこれと反対のことが起こります。
「同じオペレーションを行う」ということは「実態はなにも変わらない」ということであり,それにもかかわらず採用する会計基準によって利益は異なってしまいます。
一方,キャッシュフローにおいては,実際に外部に原材料や製品等の購入金額として支払った額を出(アウト)として認識するため,このような違いは発生しません(表1-3)。
キャッシュフロー表上は,利益レベルで違いがあっても,その違いは消去されます。
キャッシュフローの計算過程で棚卸資産の増減を(必要運転資本の増減として)考慮し,これが増加すればキャヅシュフローがマイナス,減ればプラスという処理を行うからです 利益がプラスでも,企業は決して安心とはいえません。
キャッシュフローが続かなくなることで,企業は倒産します。
よく1円でも資金繰りがなければ,企業は倒産するといわれます。
黒字倒産という現象があります。
例えば,売上やコスト構造が毎年変わらずに推移しても,世の中が不況になり,売掛金の回収スピードが遅くなり,購買先の企業からその支払サイトを短縮するよう要求され,また銀行から貸し渋りをされたり,貸付金の返却を迫られたりすると,黒字でも企業は倒産してしまいます。
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